「おもぎ」を見つけよう

いざ部屋の中を緑でいっぱいにしようと観葉植物を手当たり次第に買い込んでみると、葉っぱの形、厚さ、質感が全く異なるものを同居させてしまい、雑然とした「陳列場」になってしまいます。観葉植物を手に入れる前には、どんなイメージの空間にするかを決めておくとよいでしょう。その時に、頼りになる考え方が「おもぎ」です。「おもぎ」は「主木」ともいい、好みにあった木を一本決めて、それに合うように周りを揃えていくのです。

一口に緑といっても、その雰囲気は様々です。葉っぱの細いもの、丸いもの。光沢のあるもの、艶消しのもの。肉厚のもの、ペラペラのもの。大きい葉がどっしり鎮座するもの、小さい葉がたくさんチロチロ生えるもの…などなど。これらの全然雰囲気の違う葉っぱを持つ植物をひとつの空間に置いてしまうと、ただの雑然と散らかったような雰囲気になってしまいます。しかし、せっかく緑でいっぱいにするなら、もっとまとまった雰囲気のある揃え方をしたいものです。

まとまった雰囲気を出すためにまず考えがちなことは、初めに全てを計算ずくで設計してしまうことです。身の回りの工業製品は全てそうして出来上がっています。あの木はここ、この木はここ、という風に決めてしまうのです。設計している時はとてもワクワクしますし、出来上がった瞬間の雰囲気はそれほど悪くはないものでしょう。

しかしながら、このようなやり方には2つの大きな欠点があります。1つは、設計者に設計能力が必要ということです。熟練の職人レベルになればどの植物とどの植物をどう配置すればこんな雰囲気が出るということを計算することができるかもしれません。ですが、あくまで癒しを得るために緑を集める場合には、そこまでして能力を高めてもあまり意味がありません。

もう1つは、植物は成長し変化をするということです。初めの設計が上手くいって、思い通りに完成したとしても、植物はそこから芽を出し葉を増やし場合によっては花を咲かせるのです。そのため、時が経つと初めの設計とはどんどん変わってきてしまい、雰囲気も思った通りではなくなってきてしまい、また整備し直さなくてはならなくなるのです。

このような手間を掛けるのではなく、簡単にまとまった雰囲気を出す手法があります。それは、「主木」を初めに決め、それに合うように周りを揃えていくというやり方です。「主木」は、庭師さんの世界では「おもぎ」とも呼ばれ、読んで字の如く主となる木のことです。庭師さんの世界では成長や四季による変化の非常に大きい樹木を扱います。もちろん入念な設計もしますが、工業製品のような経年変化をあまり気にしなくて良いものとは異なり、樹木の変化を含めて計画をしなければなりません。その時に「おもぎ」の考え方が重みを持つようになるのです。

この「おもぎ」には、昔は松の木がおめでたい木という理由で使われることが多かったそうです。そういわれると、日本庭園には松の木が多く見られるような気もしますし、松の木がないと何だか日本庭園ではないような感覚さえ覚えます。日本庭園のあの雰囲気も実は「おもぎ」によって醸しだされているところが大きいのではないでしょうか。日本庭園を見る機会があったら「おもぎ」がどの木なのかを探してみるのも面白いかもしれません。

こうした「おもぎ」の手法は素人でもわりと馴染みやすいのではないかと思います。難しい空間設計はとりあえず置いておいて、まず自分の好みに合った木を見つけ、「おもぎ」として迎え入れることから始めればよいのです。「おもぎ」はその後の空間の雰囲気に最も影響を与える木なので、現在の部屋の雰囲気…和室か洋室か、壁紙は白かそれ以外か、家具の形や色はどんな具合か…を含めて、じっくりと検討しましょう。

参考資料
佐野藤右衛門 著(1999)「木と語る」小学館