寒暖の差を穏やかにしてくれる緑たち

緑のない砂漠に行ったとしましょう。太陽はカンカンと照りつけ、ジリジリと大地を焼き付けます。日差しが強いため、半袖ではなく全身をくるむような服装でいなければなりません。ところが、夜になると辺りは一変します。昼間の暑さが嘘のように冷え込み、昼間の気分のままでいると寒暖の差に驚くことでしょう。森の中ではこうしたことはなく、緑が気温の激変を和らげ快適な環境をつくりだしてくれています。

実は、森の中と外では1ヶ月や1年という長い目で見れば、平均の気温にはほとんど違いがありません。しかし、例えば同じ緯度の場所、分り易く言えば日差しの強さが同じ場所でも、森やジャングルの中と砂漠とでは1日の寒暖の差の大きさが全く違います。緑のあるところは熱しにくく冷めにくく、砂漠は熱しやすく冷めやすいのです。

砂漠どうして砂漠は砂漠は熱しやすく冷めやすいのでしょうか。砂漠では日光を遮るものがほとんどありません。木の葉もなければ雲すらもありません。そのため、昼間は太陽からの光や熱が上空向きにほとんど反射されず、9割方が地上に降り注ぎ、地面の気温がグンと上がります。逆に、夜になると昼間に温められた地面から熱が逃げていきます。このときにも遮るものがないため、地面から出た熱のほとんどが地面向きに反射されず、すぐに上空に逃げてしまうのです。こうして砂漠は熱しやすく冷めやすい環境になってしまうのです。

森林一方、緑のあることろでは木の葉があったり雲があったりするため、太陽からの光や熱は7割方反射され、3割くらいしか地面に向かいません。地面に届きそうな熱も、緑が水蒸気を出すときの熱として使われるため、地面に届く熱はさらに少なくなります。そのために、昼間に気温がグンと上がることが少ないのです。夜になれば、地面から出た熱の8割くらいは木の葉や雲によって反射され、地面と上空との間に閉じ込められます。熱がすぐに上空へ逃げてしまわないため、夜間に急に寒くなることもないのです。このような仕組みで、緑のあるところは熱しにくく冷めにくい環境になっているのです。

季節の変わり目には、体調を崩しやすかったり持病が悪化したりすると言われます。季節の変わり目の時期には急に陽気になったり急に冷え込んだりして、気温が激しく変化することがあります。このときに身体にストレスがかかり、自律神経の働きが乱れて体調が崩れてしまうのです。このように急激な寒暖の差は健康に悪い影響を与えるのです。

緑の豊かなところでは寒暖の差が和らぎ、健康にもよく過ごしやすい場所であることは間違いありません。日本では全体の41%の森が植林されたもののようですが、日本人は近代化の流れの中でも緑の大切さを忘れなかったようです。例えば、神戸の六甲山は明治時代頃には禿山でしたが、熱心な植林によって緑豊かな森林に変わりました。近年では都市部にも街路樹を植えたり公園をつくったりして、緑を積極的に増やそうとする流れができています。一時はコンクリートジャングルと言われ砂漠とまで評された場所にも緑がどんどん増えていくことは喜ばしい限りです。

参考資料
只木良也・吉良竜夫 編(1982)「ヒトと森林 森林の環境調節作用」共立出版
鳥海光弘 ほか 著(1996)「地球システム科学」岩波書店
稲本 正 著(1997)「森の自然学校」岩波新書
その他ウェブサイト