ゆったりと動く木漏れ日の心地よさ

森の中に入ると感じられる風のそよぐ音、ゆったりと動く木漏れ日、小鳥のさえずり。とても心地よいリズムで、私達の心を和ませてくれます。このリズムはきっちりとしたものでなく不規則なもので、「ゆらぎ」と呼ばれます。「ゆらぎ」のうちの一つである「1/fゆらぎ」が人間にやすらぎと快適感を与えてくれるのではないかといわれており、様々な工業製品にも応用されています。「ゆらぎ」のあふれた森の中はまさに「ゆりかご」といえます。

自然の中のあらゆるものは揺らいでいます。風のそよぐ音、ゆったりと動く木漏れ日、小鳥のさえずり、いろいろなものが揺らいでいます。虫の音も、波の音も、星の瞬きも。これらの揺らぎは、規則的のようで、規則的ではありません。ですが、不規則のようで、不規則でもありません。自然の中の揺らぎは、このようなどっち付かずの揺らぎであることが多いのです。どっち付かずの揺らぎは飽きることがなく、いつまででも楽しむことができます。おそらくそのような理由で、快適感をより感じることができるのではないでしょうか。

「1/fゆらぎ」と呼ばれる揺らぎがあります。簡単に言うと「1/fゆらぎ」はどっち付かずの揺らぎのうち、規則的と不規則的のちょうど中間の揺らぎのことをいいます。電子部品や半導体につきものの雑音を消すための研究の最中に発見された揺らぎなのだそうです。この揺らぎが快適感のある自然由来の揺らぎの中にもよく見つかることから、「1/fゆらぎ」が快適感の要因ではないかと考えられるようになりました。

こうした経緯から、「1/fゆらぎ」を発生させる回路を扇風機や照明などに組み込んで、より快適感を加えようとする工業製品も開発されています。また、クラッシック音楽や人気歌手の声にも「1/fゆらぎ」があることが分かり、癒しの象徴のように扱われることもあるようです。ただ、「1/fゆらぎ」は数多ある揺らぎの一つに過ぎず、それこそが快適感の原因であるという根拠は薄いようです。

森の音を聞いたときの快適感の違いしかし、本家本元の自然由来の揺らぎが快適感の向上につながることは実験的に確かめられているようです。右のグラフは、小川のせせらぎ、ウグイスのさえずり、カッコウの鳴き声、西表島の夜の田園(カエルの鳴き声入り)、無音、ピュアートーン(ただの雑音)を被験者に2分間聴いてもらい主観評価と前頭部の脳活動の測定から快適感を算出したものです。自然由来の音では快適感が増し、無音や雑音では快適感が減ることが見て取れ、自然由来の音が快適感の向上につながっていることが分かります。「1/fゆらぎ」で人工的に作られた「自然風の」揺らぎも良いかもしれませんが、やはり本物の自然の揺らぎが好ましいことは間違いありません。「ゆらぎ」のあふれた森の中はまさに「ゆりかご」といえます。

私達の普段見ている景色はどんなものでしょうか。部屋の中一つをとってみても、幾何学的な、直線的なデザインのものであふれているのではないでしょうか。屋外では多少の街路樹などがあっても、家やビルや自動車や道路など、やはり揺らぎとは程遠い硬い感じのものが多いのではないでしょうか。これでは快適感が減少し、ストレスが溜まってしまうことも多くなるかもしれません。

なので、私達は自然由来の揺らぎを日常の中にももっと取り入れなければなりません。緑のある公園や、余裕があれば、森林を散策して自然の揺らぎを身体いっぱいに受けることで普段の硬い感じの世界から離れ、ストレスを減らすことが大切です。また、部屋の中にも木目の見える製品や観葉植物など、少しでも自然のものを取り入れることが大切だといえます。

参考資料
宮崎良文 著(2003)「森林浴はなぜ体にいいか」文春新書
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